PLAYER INTERVIEW
野行の宝財踊りは大正時代から続く伝統芸能です。野行地区の開拓を祝う祭りで浪江町からの参加者が踊った踊りが起源とされています。神様や仏様に捧げるものではなく、民衆的な芸能で、踊りの間に面白おかしい余興の時間があるのが特徴です。私たちの親の代までは踊る機会はあったのですが、いつの間にか踊らなくなっていましたね。
私が役場に勤めていた時に先祖のことや野行の歴史を調べたことがあったのですが、その中で宝財踊りという芸能の魅力を改めて知ることになり、どうしても再現してみたくなって保存会を立ち上げました。村民会館や野行の公民館で催し物がある時には踊りに行ったり、子供たちに教えたりして、楽しい活動でしたね。
だけど、2011年に起こった原発事故の影響で、帰還困難地域に指定された野行地区の住民は集まる場を失いました。宝財踊りを踊る機会も無くなり、このままでは踊りは忘れられてしまうと思っていた時に、避難した子供たちに葛尾を思い出して欲しいという小学校の要望で宝財踊りを教える機会がありました。実際に教えてやると踊りが面白いからか子供たちは本気なんですよね。家に帰っても「今日は学校でこれやったんだ!」なんて言って踊ってくれていたみたいで、その話を聞いた時は本当に嬉しかった。改めて宝財踊りっていいなあと思い、この文化は残さなくてはいけないと思ったんです。
そこで、宝財踊りをビデオに残すことにしました。いつか機会がある時に踊ってもらえるように振り付けから小道具から全てを映したんです。その中には帰還困難区域となった状況を伝えるために野行の風景も入れました。文化伝承という意味では必要のないシーンかもしれませんが、伝承ができなくなった理由を説明する必要があると思ったんです。
宝財踊りに深く関わる前は親の世代がなんのために踊っているのかわかりませんでした。当時は、思い思いに踊る人たちを面白がって周りの人たちも一緒に踊り始めていた。今考えると、この楽しみの連鎖が伝承の形だったんじゃないかなと思います。宝財踊りに正解というものはなく、これがダメでこれがいいというものはありません。余興の場面はいくらでもアレンジできるので自由にやってもらえたらと思います。宝財踊りを思い出のままにするのではなく、継承してみんなで面白おかしく踊りたいですね。
(2021年10月取材)