INTERVIEW

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農家(葛尾村 野川地区)
松本 義朝さん

震災前はタバコ栽培とコメ作り、あと少し畜産もやっていました。それから蕎麦が好きで畑でソバを育てたり、「石臼の会」という蕎麦打ちを楽しむ人たちの集まりに入って、自己流で蕎麦打ちをしたり していました。蕎麦打ちっていうのは道理さえわかってしまえばあとはその人のコツと勘だから。うまい蕎麦もうまくない蕎麦もその人の打ち方次第だよね。

震災があって妻と二人で仮設住宅に避難して、5年くらい はそこで生活していたかな。今まで毎日やっていた畑仕事ができなくなって、本当にやることがなくなってしまった。ずっと家にいると息が詰まるだけだったので、以前から趣味だった旅行を再開。部落の人や同級生たちといろんなところを旅行しました。四国や沖縄、青森、山形にもさくらんぼ狩りで何度か行ったかな。いい思い出です。

避難指示が解除された後は、すぐに葛尾の家に戻り、またいろんな野菜作りを始めました。コメ作りも去年くらいから始めたし、今はソバとエゴマの栽培にも力を入れています。ソバは最初、自分で食べる分には問題なくても誰かにあげたり売ったりしてはダメだったんです。でも、 葛尾村と福島県の二つの機関で放射線量の検査をして、安全だという証明書を一昨年にもらったので、それからはイベントで蕎麦を提供しています。

現在も「石臼の会」のメンバーで集まって蕎麦を打ったり、いろんなイベントで蕎麦打ちを教えたりしています。子供たちや若い人にも教えたいんだけど、今どきは興味を持ってくれる若者がいなくて寂しいです。もっとたくさんの人に蕎麦の魅力を伝えたい。まず香りがいい。それから、練って切って食べるまでに約1時間半。これほど手間がかかるからこそ、食べたときになおさらおいしいんです。去年は年越し蕎麦を作って、娘たちや部落の人に配りましたが、かなり忙しくて大変でした。

これからの時期はエゴマの収穫ですね。葛尾村はエゴマ油が有名で、あれはお土産にもちょうどいいよね。最近では郡山女子大学の学生とエゴマアイスの開発をして、試作品を食べてみたんだけどとてもおいしかったよ。

震災前も震災後も変わらず農業を続けてきて思うのは、やっぱり能書きだけで農業はできないということだね。農業は経験して学ぶものだから、いくら本を読んだってダメなんだ。本に書いていない想定外のこともたくさん起こるからね。もう80歳になるので腰が痛かったり、体力的にきつかったりするときもあるけど、これからもずっとソバや野菜を作り続けていきたいですね。 何よりの生きがいだからね。

(2020年9月取材)


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