PLAYER INTERVIEW
ヘルベチカデザイン株式会社は2011年8月設立のデザイン事務所です。現在12名のスタッフで、福島県内外のクライアント向けに幅広いクリエイティブサービスを提供しています。
一方、2018年6月に設立した一般社団法人ブルーバードでは、郡山市清水台に2019年1月にオープンしたブルーバード・アパートメントの運営を行っています。ここは元美容室だった築45年の建物をフルリノベーションしたもので、1Fがブックカフェ、2Fがヘルベチカデザインの事務所、3Fがクリエーターズ・スモールオフィス(シェアオフィス)、4Fがイベントスペース。「デザイン」を柱にしていろいろな人が集まる場をつくりたかったのと、「地域にデザインを入れる」ことで地域はどう変われるか、という実例づくりの場でもあります。
というと、ブルーバードは「まちづくり会社」だと思われるかもしれません。でも、私は「まちづくり」という言葉はあまり好きじゃないんですよ。まちは「つくる」のじゃなくて「できる」ものだから。昔の宿場町でも茶屋でもそうでしょう。おいしいものがあって、心地よく滞在していられる場所が、町をつくる一つの要素となる。そういうところに人は自然と集まる。だから私たちは、人気のチェーン店を呼んでくるとか、単純にイベントを開くとかではなく、町の喫茶店のようにいつも変わらずそこにあり、地域の人々の日常に溶け込むような存在になりたいと思っています。
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私の生まれは福島県須賀川市です。もともとデザイナーを目指していたわけではなく、初めはアパレル業界で働いていました。その後、グラフィックデザインの事務所に入所してゼロからデザインの基礎を学んだのち、30歳の時にフリーランスに転向。地元・福島の企業さんのツールデザインや内装デザインなどの仕事をこなす日々がしばらく続きます。ただ、東京のクライアントも多かったので当時から2拠点居住でした。そうやって福島と東京を行き来するうち、デザインというものに対するリテラシーの差を実感し、地方と東京の情報交流の大切さに気づいたのです。それで私は、「地方にデザインの価値を伝えよう」と決めたのでした。
2011年の東日本大震災は私にとって、東京と福島の仕事のバランスが大きく(福島寄りに)変わったという意味で大きな契機ではありました。同年 8月にヘルベチカデザインを設立したのは、やはり個人のままでは仕事の幅を広げるのに限界があったからです。会社を作って何をしたかというと、まず農業や一次産業の再生をテーマにしました。最初のプロジェクトが石川町の大野農園さんです。
すぐに稼ごうと思ったら、広告代理店と組んでチラシなどの広告を作ればよかったんです。でも、私は自分にしかできない仕事をしたかった。福島の復興は一次産業から始まると私は考えていたし、そこに「デザインを入れる」、すなわちデザイナーが関与することで農業はもっと魅力的な産業になるはずだと。だから私は、ただロゴやパッケージをデザインするだけではなく、新規事業サポートから販路開拓まで一緒にやらせてもらいました。
つまり私たちの仕事は納品して終わり、ではありません。大切なのはそのデザインが「機能すること」なんです。たとえば赤字が黒字になるとか、なにか課題解決につながって初めて価値が生まれる。だから、つくったデザインが機能するまで伴走を続けるのです。
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そうした仕事を続けているうち、ある大きなプロジェクトのご縁をいただき全国各地で話をする機会が増えてきました。地域づくりの中にデザインを生かす、というテーマで話すことも多くなり、やはり自分の地元を一番に大切にしたいと思って構想したのが、地域の人々が混じり合う場所、ブルーバード・アパートメントだったのです。
この事業を、自社のヘルベチカデザインで実施することももちろん可能でした。が、それでは独りよがりになってしまう。地域の人たちと共に考え、悩み、少しずつ形にしていくことのプロセスに価値があります。そこで、地元の事業主さんたちに思いを伝え、不動産会社や酒問屋、美容室、和食屋さんなど10名の方に理事に就任していただいて設立したのが一般社団法人プルーバードでした。毎朝スタッフみんなで通りを清掃しながらご近所さんにご挨拶したり、世間話をしたりすることで、年齢や立場を超えた地域内の新しい関係が生まれてきています。私の理想は、八百屋、魚屋、デザイン屋、みたいな存在になることです(笑)
福島では震災後、たくさんの地域課題が浮き彫りになりました。でもまだ解決には結びついてないものが多い。そこにデザインの力が生かせるはずです。私たちは葛力創造舎の商品デザインを通じて、葛尾村にもご縁をいただきました。葛尾村産の商品のデザインとは、つまり「葛尾らしさとは何か」を追求すること。無いものを無理に作ろうとするのではなく、「いま有るもの」の魅力を高めていくことで、村の可能性は広がると思っています。
(2019年11月取材 M/N)