INTERVIEW

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株式会社 鈴木酒造店長井蔵 代表取締役(山形県)
鈴木 大介さん

鈴木酒造店は、福島県浪江町の沿岸部にある請戸(うけど)地区にて江戸末期から酒造りをしてきた酒蔵。代表銘柄の「磐城壽(いわきことぶき)」は、請戸の漁師たちをはじめ地域の人々の暮らしに欠かせない祝い酒として親しまれてきた。しかし、2011年の東日本大震災の大津波ですべてを流失。続く原発事故のため浪江町から避難を余儀なくされる。それでも鈴木さんは、浪江の酒を復活させてほしいという周囲の声を受け、同年12月より山形県長井市の老舗酒蔵を引き継ぐ形で酒造りを再開。浪江への帰還を目指しつつ、定番銘柄に加えた新商品開発に力を入れるほか、特定地域のコメを使った地酒づくりの依頼にも応えている。


2020年4月に葛力創造舎が発売した日本酒、「でれすけ」の醸造を担当しました。地元の言葉で「ダメなやつ」という意味の商品名も、ユニークな形のラベルも、すべて依頼者の下枝さんのアイデアです。おもしろいなあと思いました。自分だったらまず考えつきませんね(笑)。

葛尾村産のコメで日本酒を作れないかと相談されたのは、去年(2019年)の春ごろです。浪江町と葛尾村は同じ双葉郡の隣同士ですが、私自身はそれまで葛尾とほとんどご縁がなく、葛力代表の下枝さんと会ったのも、そのときが初めてでした。葛尾でコメづくりを通した地域コミュニティ再生を目指していることや、「結」の精神を現代に復活させたいという彼の思いを聞き、「ぜひやらせてほしい」と返事をしました。

「でれすけ」の原料米は、「里山のつぶ」という新品種の飯米です。原理的にはどんなコメでも酒は造れますが、通常使うのは酒造好適米(酒米)です。うちとしては初めて使う飯米で、しかもテストなしの一発勝負でしたが、結果的には満足のいく品質のものができたと思っています。下枝さんからは、「みんなでワイワイ楽しめる酒にしたい」というコンセプトをもらっていたので、誰の口にも合うよう、2種類の酵母をブレンドして甘めで香りの高い酒に仕上げました。ふだんうちが造っているものとはまったく違うタイプですが(笑)。葛尾村の地域特性のせいか、葛尾産の「里山のつぶ」は飯米でも比較的酒造適性があり、造りやすいと感じました。来年以降も依頼があればぜひまた造りたいですね。

鈴木酒造店は震災後、ご縁をいただいた山形県長井市で酒造りをしていますが、いずれ故郷に戻りたいという気持ちは当初からありました。2014年に浪江町でコメの実証栽培が始まると同時に、その収穫米で日本酒造りを開始。(町の避難指示が一部で解除された)2017年には、米だけでなく仕込み水も浪江町の原水を使った「ランドマーク」を発売しました。

その後も町の復興は進み、今年後半にはいよいよ道の駅もオープンします。そこには醸造所を持つ「地場産品販売施設」も開館予定で、そこで醸した日本酒を、浪江の伝統工芸である大堀相馬焼の器と組み合わせて提供するサービスなども計画されています。こうして町に賑わいが戻ってくれば、さらに多くの事業者が再開できる環境になるでしょう。

実は今年3月、長井市の旅行会社と共に浪江町ツアーを企画し、酒米の作付けをお願いしている農家さんの話を聞くなどの計画をしていたんです。全国から満席の申込みがあったにもかかわらず、残念ながら新型コロナウィルスのために中止せざるを得ませんでした。が、それでも長井市内の知友人だけで浪江を訪れ、慰霊碑で黙とうをささげ、請戸の以前の酒蔵の場所なども見てもらうことができました。

日本酒の消費量はもともと減少していますが、そこへ今般の新型ウィルスです。うちもかなり影響がありました。家飲みが増えたといっても、売れているのは安いビール系飲料。日本酒はやはり人が集ったときのものなんですね。こうした中で生き残るには、時代にあった新商品の開発、少量パックなど新しい売り方の開発に加え、商品の裏にあるストーリーを丁寧に伝える様々なコンテンツを用意して、現在の飲酒人口以外の層へもアプローチすることが欠かせないと思っています。

浪江も葛尾も震災前の基幹産業は第一次産業で、人々の暮らしは「食」と密接に関係していました。食べ物を粗末にしない、様々に加工して無駄なく使い切るのも地域の文化です。これから地域を盛り上げていくには、こうした暮らしの中の「食」の魅力を復活させるだけでなく、そこに新しい人々との交流を通じて新しい価値を加えていくのが大事ではないでしょうか。葛力創造舎の活動には若い人たちも大勢関わっているようですから、大いに期待しています。(2020年5月取材)

 


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