INTERVIEW

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豊国酒造合資会社(古殿町)
矢内 賢征さん

豊国酒造は、古殿町で180年以上の歴史を持つ蔵元です。創業以来つくり続けている「東豊國」は、古殿でお酒といえば「東豊國」というほど、地元で親しまれてきました。

東京の大学に進学した私は、卒業とともに故郷に戻って9代目を継ぎました。2009年のことです。実は卒業したらしばらく東京などで仕事をして、戻るのは40代になってからでもいいかなと考えていたんですよ。当時、蔵元は経営、酒造りは杜氏という分業体制になっていて、自分は経営の方を継ぐのだと思っていましたから。ところが、就職活動をする中で日本酒業界のことを調べるうちに、これは面白そうだなと。古殿に帰って一から酒造りを学び、2011年には「一歩己(いぶき)」という新しい酒を、自ら醸し出すことができました。伝統や格式を受け継ぎつつ、現代の嗜好に合わせた新銘柄です。

「地酒」には、実は明確な定義がありません。私が考えるには、なによりもそこに住む人々の喜怒哀楽に寄り添う酒こそが、ほんとうの地酒。そして人々の嗜好は時代とともに変化しますから、「伝統の味」を守るというよりも、地域で愛され続ける「おいしい酒」としての豊國ブランドを守りたいと考えています。

とはいえ地域の人口は減少傾向ですから、豊国酒造としては福島県内外にも積極的に販路を開拓しています。その結果、以前は石川郡(古殿町を含む5町村)内で9割近くが消費されていたのが、現在は4割弱まで減少しました。東京でも10店程度に出荷しています。ただ、全国各地から同じような「地酒」が集まってくる中で、「本物」として選ばれるためには、やはり、いかに地元に根付き地元に愛されているか、という物語が重要になってくるんですね。

そのために古殿での酒米の生産も増やしたいと考えています。以前からコメは町内でも作っていますが、水田が少し目立たない場所にあるんです。もっとみんなが知っている、いちばん目立つ場所でやりたい。そこで今年は、農業体験などを積極的に受け入れている農業者、小澤さんの「おざわふぁ~む」の田んぼに、「一歩己」の原料となる美山錦を植えてもらいました。まだ試験段階なので量は少ないですが、この冬、酒ができたときに「あの田んぼのコメからできた酒か」と、町のみなさんに思っていただければうれしいですね。

若者の日本酒離れが進んでいると言われますが、おそらくそれは成人して最初に飲む日本酒がおいしくないからでしょう。だから、古殿の新成人が一口目に飲む酒は、ぜひ地元のおいしいお酒であってほしい。そこで、来年の新成人には、町内産の美山錦で作った「一歩己」を何らかの形でふるまいたいと考えています。町外に出た人もみな戻ってくる成人式は、絶好の機会ですね。コメづくり・酒づくりのプロセスにも新成人の皆さんに何らか関わっていただくのもよいかもしれません。こうしたことを実現するのに、関係者の間に入って企画をまとめてくれる葛力創造舎の下枝さんのような存在は、とても助かると思います。

(2017年6月取材)


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