PLAYER INTERVIEW
私が在籍する株式会社キャリアコンサルティングは、「凛とした人づくり」を経営理念に、日本の未来を担う人材を創出する総合人材プロデュース企業です。幅広い事業を展開していますが、なかでも、「リーダーシップの基礎を身につける」教育に力を入れており、社会人対象の「しがく」、大学生対象の「NEXUS」というプログラムを運営しています。これらはまったく広告していないにも関わらず、現在年間5,000名を超える学生と3,000名を超える社会人が学んでおり、私もその講師を務めています。
葛力創造舎の下枝さんとは、10年ほど前、その「しがく」の前身となるリーダーシップ教育プログラムを通じて知り合いました。当時、埼玉の大学院生だった下枝さんがそのプログラムに入会し、私が彼の担当になったのです。
下枝さんの第一印象は、頭の回転が速いこと。そして、宗教観・世界観をしっかり持っていたことです。人は何のために生きるのか、答えを探しにインドのチベット亡命政府などアジアを放浪したという下枝さんは、数字やお金よりも「こころ」に関心があり、「人のためになることがしたい」と言っていました。私がそれまであまり会ったことがないタイプで、興味を持ったのを覚えています。
下枝さんが学び始めて4年ほどしたころ、東日本大震災が起きました。下枝さんはすぐに勤めていた会社を辞め、故郷の福島へ帰ることを決心されました。私も両親の実家が岩手県の沿岸部だったこともあり、自分にできることはないか、まず現場を見て考えようと、震災の約3週間後に東北を訪ねたのです。そのときちょうど郡山で家を探していた下枝さんに合流し、一緒にレンタカーで南相馬から北上して、まだ津波の爪痕も生々しい被災地を回りました。そのときの記憶は鮮明に残っています。
その後、会社として数回、東北の被災地を訪れてボランティア活動をしましたが、私自身が福島県で復興・地域づくりに具体的に関わるのは、今回の「葛力創造塾」の講師が初めてです。下枝さんから依頼がきたときは、「ようやく一緒に仕事ができる」と思いました。かねてから彼とは福島でなにかやりたいね、と話していましたので。
葛尾村はじめ超過疎化が進む被災地の再興のためには、外からスーパーマンを連れてくるのではなく、「ふつうの人たち」がリーダーシップを身につける必要がある、という下枝さんの信念から、この塾は生まれました。ここで言うリーダーシップとは、大勢の組織をひっぱる指導者という意味ではありません。自分の人生のリーダーは、誰でもない自分自身だと気付くことです。リーダーシップなんて生まれつきの才能だと思っている人も多いでしょう。私も以前はそう考えていました。でもそれは違います。自覚を持ってしっかり学べば、どんな人でも自分の人生の主人公になることができ、そういう生き方をしていれば、必ず周りに火を灯すことができるのです。
今年度の葛力創造塾のテーマは、20代30代を対象にした「コミュニケーション講座」となっていますが、それはコミュニケーションがリーダーシップの基礎となる能力だからです。コミュニケーションがうまくいかない人の特徴は、人の話の聞き方がわかっていないこと。自信がないと自分が話す内容ばかりを考えてしまって、相手の話を一から十まで聞く余裕がないのです。これでは相手が本当に言いたいことや、重要なポイントをつかむことができません。講座では、ロールプレイングなどを通じて自分がどれだけ聞けていなかったかを理解するとともに、感じたことをお互い話し合ってもらいます。他人の感想を聞くというのも大切なことです。講座の一環として読書会を行うのは、同じものを読んでもいろいろな意見や考え方があること、物事の多面的なとらえ方というものを学ぶためです。
私は「日本を良くしたい」という思いで仕事をしています。一方の下枝さんはいま、ふるさと葛尾村を良くするためにがんばっている。一見、この二つは離れたことのように見えますが、そうではないと思います。薪を背負った二宮金次郎が読んでいる本、あれは四書五経の「大学」ですが、その中に「修身齊家治国平天下」、つまり「国を整える前にまず家を整えよ」とあります。家とはすなわち家族でありコミュニティなのです。
ここで私にできることを最大限にやれば、それが下枝さんのためになり、葛尾のためになり、福島のためになり、それがひいては国のためになる――そんなふうに考えています。
(2017年6月取材 M/N)
【川端隆拓さんプロフィール】 埼玉県出身。高校卒業後、陸上自衛隊に入隊し、航空機の整備に携わる。1任期(2年)満了後、医療福祉専門学校を経て、2008年に若者の人材教育を行う株式会社キャリアコンサルティングに入社。第一線で活躍するリーダーを育成している。