PLAYER INTERVIEW
ジャパン・プラットフォームは福島支援を強化中
2000年に誕生したジャパン・プラットフォーム(JPF)は、日本政府と経済界、そしてNPO/NGOが対等な立場で協働するプラットフォーム(基礎・土台の意)で、アフガン、スーダン、シリアといった紛争地やスマトラ沖地震など国際的な緊急人道支援が求められる際に、NPO/NGOが現場で迅速かつ適切に活動を展開するためのコーディネーションを行っています。
国内での支援活動は2011年の東日本大震災の時からスタートしました。それまでの経済界とのつながりを生かして寄付を募り、JPF加盟団体以外でも使うことができる「共に生きるファンド」という助成事業が2011年4月に立ち上がり、東北の被災された方を対象とした372の事業(2017年4月現在)に助成してきました。特に福島県は、一定の避難指示解除がなされ住民が暮らし始めている現状と、自主避難者を含めて避難生活を継続されている人がいまだに多くいるという状況もあり、重点的な支援が必要だと判断し、今年度から「福島支援強化」を打ち出しています。
JPFの1つの特徴としては、私のような地域コーディネータが現地に駐在し普段から現場の団体を中心に情報収集を行っている点にあるかと思われます。助成審査の時に申請書面だけですべてを判断するのではなく、事前に相談をいただいた団体には申請書の作成前から可能な限り面談形式で話合いを重ね、審査時には、書面で伝えきれていないことをコーディネータがフォローします。
「双葉郡プレーヤーズ・インフォメーション」という冊子制作を通じたユニークな人材育成
下枝さんの葛力創造舎が、「双葉郡プレーヤーズ・インフォメーション」という冊子を制作するため、初めて「共に生きるファンド」に申請したときも、事前にお会いして、より良いプロジェクトになるよう共に話し合いました。この冊子制作は、広い意味で人材育成という目的を持っていると思いますが、普通なら「東京から講師を連れてきて研修しましょう」という形になるところを、地元の若手人材が地元の関係者にインタビューをして情報誌にまとめる、というアイデアがユニークでしたね。
下枝さんは、有能な人材をどこかから確保するのではなく、地域に関わる“普通の人”の潜在的能力を引き出したい、つまり普通の人が地域の関係者にインタビューし冊子をつくる過程で、企画力、コミュニケーション能力、ビジネスマナー、ライティング・編集力、情報発信力など、将来彼らがどのような活動や仕事に従事するとしても汎用できるスキルを実地で獲得できると信じていました。またこれは、地元の人材の発掘・育成だけでなく、同時に地域のネットワークも創造・促進できると考えられました。この、“地域のみんなが『資源』となる”という視点は、資源が極端に少なくなった福島の避難指示解除地域においてとても大切だと感じました。
このプロジェクトでは、インタビューをする人もされる人も下枝さん自身を含めて比較的若く、インタビューといういわばOJTを通して大きな学びがあると思われました。また、地域の人同士のコミュニケーションとなるためお互いの話に刺激を受け合い、それがその人のスキルアップや生きがい向上につながるかもしれません。そして、そうした成果を下枝さんがもともと持っている個人的なネットワーク・人的つながりに乗せれば、波及効果も期待できます。そういう手法は、担い手不足が特に深刻な福島において可能性があると判断されました。
今後に関しては、下枝さんの故郷である葛尾村の中に葛力創造舎の拠点が早く設けられ、団体名の通り、葛尾および周辺地域の事業に注力できるようになることを個人的には願っています。今はまだ、福島県内のいたるところで下枝さんたちの助けが求められている時期なので、一定箇所に活動を絞っていくことは難しいかもしれません。が、時が来て、村内を起点とし地に足をつけて活動ができ始めると、地域の人たちも安心しますし(笑)、団体のアイデンティティもさらに強固なものになっていくと感じています。その上で、下枝さん自身も含めた「地元で活躍する人たち」を広域でつないでいけば、葛尾および双葉郡内で中間支援的な動きをしてくれる葛力創造舎というポジショニングがより生きてくると思います。
外部にもいる「見えない地域資源」
復興需要も徐々に減退しています。また、いまの世相および社会・経済システムの悲しさでもありますが、これまでのような寄付や助成金は長くは続きません。世間の関心の低下に比例するように経済界からの寄付も縮小傾向にあります。これから本当の正念場を迎える福島では、今のうちにできる限り、現場の非営利(営利も行政にも言えることですが)組織の事業基盤や人材育成や外とのつながりづくりを進め、それらが地域内で集まって支えあう繋がり・ネットワークを確立し、一定の自走ができる体制を作る必要があると感じます。
都市部と違い、地方のNPOにとって寄付金・会費収入だけで組織運営していくことが一般的には厳しいと言われています。その中では、地域循環型経済に加え、都市部や海外へのアプローチ、行政との補助・委託・協働事業など、都市部以上に多様かつ革新的な経営戦略が求められているのかもしれません。そういった意味で、葛尾村、福島および東北、ひいては日本の地方はまさに、いまの日本社会が突破しなければならない分厚い壁をやぶる先駆的地域だと信じています。そして、下枝さんたちの取り組みに、私を含めた福島・東北で活動している人たちや全国の応援者も、生涯つづく「見えない地域資源」として加えていただけたらと願っています。
(2017年10月取材)