PLAYER INTERVIEW
私は福島県田村市滝根町に住み、夫と協力して無農薬農業をする傍ら、所有する加工所で甘酒やジャムなどをつくっています。
以前は管理栄養士として東京都内の小学校に学校栄養士として勤めていました。農業には縁のなかった私ですが、毎日給食の献立をつくる中で、調理する野菜が産地によって味が違うことに気づき、農業に関心を持ちました。そこで、たまたま新聞に掲載されていた「里山農業体験 田舎で働き隊!募集」の広告を見て参加することにしたんです。
それがきっかけで各地の農業体験に参加するようになり、2009年に、田植え体験で訪れた滝根町で主人と出会いました。主人も沖縄県出身で縁もゆかりもない土地でしたが、この場所が気に入って数年前に既に移住していました。私も自然とこの土地が好きになり、1年間の交際を経て2011年に結婚。結婚当時は、私の夢である農家民宿を10年後に開業する計画を立てていました。しかし、結婚式前日に東日本大震災が発生しました。その後1年間は、週末に主人の農業の手伝いで滝根町を訪れ、東京の実家と福島を往復する日々が続きました。
そんな中で私の気持ちに変化がありました。このままだと福島の農業はどうなってしまうのだろうか?どうにか福島の農業を残したい。私なりに地域の農家のためにも何かできないか?そう考え始めていたところ、ブルーベリー栽培をしている方から、行き場のない果実があって、これをジャムに加工できたらという声があり、この地で農産物加工場を開くことを決めたんです。生だと数日しかもたない果物でもジャムにすれば賞味期限が延びます。それだけ売り先を探す期間も延びますから、少しでも農家さんの収入アップに繋げることができると考えました。
また、私たち夫婦が栽培している黒米を使った甘酒の商品化にも挑戦しました。初めてのことだったので非常に苦労しました。麹・黒米・仕込み水の割合によって味や風味、食感が変わるので、何通りも試作して。友人に試食をお願いしたり、アンケートを取ったりして、商品として世に出るまで1年以上かかりました。
すべての作物を農薬や化学肥料を使わずに栽培しており、手間がかかるので、現状では、ジャムや甘酒の製造は農作業の合間を縫って行っています。一昨年、葛力創造舎から葛尾村でとれたコメで甘酒の製造を依頼されて引き受けたのは、村を盛り上げようと頑張っている下枝さんを陰ながら応援できればという思いからです。
将来は、ここ滝根町に農業民宿をつくって、農業に関心を持ち日本の農作物は美味しい!と思ってくれる人を増やしていきたいです。道のりは長いですが頑張ります。
【稲福由梨さんプロフィール】管理栄養士・調理師として学校給食現場に10年携わる。現在は田村市滝根町で、農薬や化学肥料を使わずに、米やエゴマ、小麦、ブルーベリー・ラズベリーなどを栽培する専業農家。自宅敷地内に加工場『福福堂』を立ち上げ、ジャムや甘酒などの製造・販売もおこなっている。
(2018年9月取材)