INTERVIEW

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須賀川すこやか農園代表
佐藤 健一さん

須賀川で長いこと農業をやっているよ。息子2人も県外から帰ってきて、経営は別だけどここで一緒にやってる。私はコメ、茄子をはじめとする野菜、それから桃を少し。息子は、地元のイタリアンレストランに頼まれて、めずらしい西洋野菜をたくさん作っているよ。私は食べ方わからないけど(笑)。

震災前は、銀座とか青山のレストランやスーパーに、無農薬で作ったコメや野菜を卸していたんだ。どこも食にこだわっているお店だったから、いい値段で売れたよ。それが、原発事故でぜんぶダメになった。6年たってもそういうお客さんは戻ってきていない。それに須賀川の農家はみな高齢化して誰も継がないから、この辺の農地はみんな空いてるんだ。大手商社が、他県で作った専用農場の野菜が天候不順で全滅したって相談しに来るから、じゃあここでやればどうだ、東京からも近いし、って勧めるんだけど、だれも福島じゃ作ろうとしないね。

そういう風評をなんとかできないかと思っていたところへ、葛力創造舎の下枝君が、東京の若い人たちが酒米づくりから日本酒仕込みまで体験できる場所を探している、って話を持ってきたの。お互いのタイミングが合ったということだね。春の田植え、夏の草刈り、秋の稲刈りと、延べ60人くらい来たかな。下枝君は、仮設住宅の人たちも田植えやりたいからって一緒に連れてきた。若い人は女性の方が行動力あるよ。裸足に短パン姿で最初に田んぼに入っていくのは、いつも女性だもの(笑)。

うちのコメは直播栽培*。他の人はやらないから笑われるけど、これがべらぼうに穫れるんだよ。下枝君たちの酒米は、田植え体験したいというから苗にしたけど、その稲だって何これ?っていうほど素晴らしく太く育ったね。収穫したコメは、郡山市の笹の川酒造さんていうところに醸造をお願いした。それで出来上がったのが「まいうぇい(米道)」というお酒。もちろん、いちばん最初にいただいたよ。

今後はこういう農業体験をもっと受け入れたい。というか、そうしなければやっていけないと思う。それに、消費者も生産に参加すれば自信をもって食べられるでしょ。体験を通じて「食のあり方」を考えてもらいたいんだ。この辺の畑が空きだらけになって、危機感を持ってる。工場でつくる野菜というのもあるけど、あれは電気代が1円でも上がったらやっていけない。やっぱり土でなきゃ。一次産業がダメになったら国は終わりなの。でもみんなそれに気がつかないんだよ。

都会には農業体験したい人はたくさんいるはずだから、これからも下枝君がキューピッドになって連れてきてくれたらいいね(笑)。提携先を広げるというより、東京とこちらにひとつずつ基地を持って、ネットワークを作れたらいいと思ってる。つながりは大事だよ。市場とつながっている人は強い。ましてや消費者とダイレクトにつながっていれば強いんだ。

*水稲の栽培には、苗を育ててから水田に植える「移植栽培」と、水田に直接種をまく「直播栽培」がある。移植栽培が一般的。

(2017年3月取材 M/N)

 


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